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最高裁判所第二小法廷 平成5年(オ)1716号 判決 1993年12月03日

上告人(被告)

吉田豊治

被上告人(原告)

北原洋

ほか二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平出一栄の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 大西勝也 藤島昭 中島敏次郎 木崎良平)

上告代理人平出一栄の上告理由

原判決には、介護料の判断につき、次のとおり、法令違背、審理不尽の違法がある。

一、損害賠償請求権を有する者(事故の被害者)においても、その損害をいたずらに拡大させぬよう相応な注意乃至努力をすべきは、信義則上の義務である。

また、事故の被害者に介護の必要がある場合に、近親者の付添いが可能である場合と本件のように被害者の両親が共働きであるために職業的介護人を付ける場合との間で、事情の相違は考慮に価いするとしても、不必要にバランスを失した負担を賠償義務者(加害者)に強いることは、公平の理念にもとる。

とすれば、民法第七〇九条、自賠法第三条の解釈として、賠償すべき損害中に介護料が含まれることは前提としても、本件の様に、能力的に介護可能な近親者は存在するが、その者が有職者であるために、職業的介護人を付ける場合には、介護料日額は、介護可能な近親者の所得日額を上限とするものと解すべきである。具体的には、本件では、被上告人の父母のうち勤労所得の低い方の所得額(日額)を職業的介護料の日額の上限とすべきである。

原判決は、職業的介護料日額を一日一万六八〇〇円(月額に換算すると約五〇万円)という高額な介護料を認定しているが、被上告人の父母の所得について全く審理せず、この結論を導いているものであつて、民法第七〇九条、自賠法第三条の解釈を誤つた違法、または審理不尽の違法がある。

二、また、職業的介護人の介護料の認定にあたつては、共働きの場合には、要介護者を、出勤時に預け、帰宅時に引き取ることのできる介護施設の利用可能性、その料金、また、自宅介護をやむなしとする場合であつても、長期の介護が予想される場合には、長期契約による単価削減の可能性が当然吟味さるべきである。

然るに、この点についても、原判決は何ら考慮していないものであつて、審理不尽の違法がある。

三、また、近親者にせよ、職業的介護人にせよ、介護料については、介護として要求される内容を考慮すべきであり、場合により、賠償額は実際の支出の相当額に限定さるべきである。

本件では、第一審における証人児玉真理子の証言(二一頁から二三頁、第一審は介護料の認定の前提としてこの証言内容を考慮している。)に示されているように、「(被上告人は)一人で何もできないという状態ではなく、声をかければそれに従つて言うことも聞いてくれる………介護というよりも、監視という面で必要だろう」というのが、本件被上告人に要する介護の内容なのであるから、原判決は、この点についても、法解釈の誤りまたは審理不尽の違法がある。

以上

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